ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、アカデミーの定点観測を続けている土地記者に、高円宮杯プレミアリーグ残留という形で大宮アルディージャU18としての公式戦を締めくくった、3年生たちを紹介してもらった。
【ライターコラム「春夏秋橙」】土地 将靖
プレミアリーグ残留をつかみ取り、
来季へバトンをつなげた3年生たちむ
高円宮杯プレミアリーグEAST最終節。昌平との一戦を1点リードで迎えた試合終了直前、森田浩史監督は主審に退席を命じられる。指揮官のいないベンチ、それでも選手たちは最後の最後まで奮闘し続け、シーズンラスト3連勝でのプレミア残留を勝ち取った。
最後の笛をベンチで、ピッチサイドで聞くことはできなかったが、指揮官の目には光るものがあった。普段、選手に対し冗談を言ったり、時に厳しく発破をかける姿も見られる森田監督には意外にも思えたが、そうした柔剛取り合わせた選手との関係性も、お互いをがっちりと信頼し合うバックボーンがあることに他ならない。ケガなどによる離脱者に常に苛まれ、後半戦は大黒柱の市原吏音をトップチームに供給する苦しい台所事情の中、未勝利が続いた時期は傍目にも辛そうに見えた。それだけに、苦難を乗り越え、ミッションを果たしたその瞬間に、こらえきれず感情があふれたのかもしれない。
あるいは、来年の高円宮杯U-18プレミアリーグの舞台を後輩たちに残してくれた最上級生への感謝のしるしか。この試合でも、前節の負傷でメンバー外となり裏方を務めた石川颯を含め、3年生全員がそれぞれの役割でチームに貢献した。最高の10人だった。
GK 1 高田裕也
1学年上に涌井寿大(現明治大)、海本慶太朗(現早稲田大)と強力な2人の先輩がいた中、なかなか試合には絡めなかった。プレミアリーグの出場は3年間でわずか3試合ではあったが、今季の第20節・流通経済大学付属柏戦では、自身のプレミア初勝利であると同時にチームの後半戦初勝利、そして今季初のクリーンシートとなる貴重な白星をもたらした。その堅守でラスト3連勝、そしてプレミア残留を呼び込んだ貢献度の高さは計り知れない。
DF 2 髙橋岳
本職はCBだが、その長身を生かしセンターFWでターゲット役を担うこともしばしば。セットプレーや試合中盤のパワープレーでは相手の脅威となり、プレミアリーグでは無得点だったものの日本クラブユース選手権では4試合で2得点の決定力を示した。市原のトップ合流やケガ人が少なくなかった中、その存在に救われたことは間違いない。
DF 3 浅井一彦
左右のSBだけでなく、緊急時にはCBもこなす守備のユーティリティープレーヤー。今季のラスト3試合では中盤右サイドに途中投入され、より強固な守備を築きクローザーとしての役割を全うした。サイドからのクロスだけでなく、ロングレンジのスローインでもチャンスを作り出し、攻撃面での貢献度も高かった。
DF 4 市原吏音
後半戦、なかなか結果が出ないチーム状況に一番心を痛めていたのは、実は彼かもしれない。単に主将というだけでなく、守備はもちろん攻撃でも起点となるその存在感は圧倒的だっただけに、不在時の穴も小さくなかった。天皇杯を含めトップチームで18試合にフル出場し、プレーに磨きをかけてU18チームのラスト2試合に戻ってくると、見事ミッションを成し遂げた。天井知らずの成長ぶりに、先がますます楽しみである。
DF 5 真壁拓海
稀少なレフティのCB。今季は得点こそなかったが、セットプレーでは高さを生かしチームに決定機をもたらした。前半戦はケガで半分を棒に振り、後半戦は不在の市原に代わり主将を務める中、結果を得られずにまとめ役として苦悩した。チームとしての苦難がそのまま個人に振りかかったようなシーズンとなってしまったが、最後の最後まで闘い続けた。
MF 6 依田功太
正確なキックでゲームを作っていくプレーメーカー。今季開幕直後は先発メンバーとして中盤を下支え、その高さは攻守両面で武器にもなった。後半戦はベンチを温めることも少なくなかったが、枯らさずに上げ続けた味方を鼓舞するその声は、最後までピッチに届いていた。
FW 7 高橋伸太朗
1・2年生の2年間でわずか1分の出場にとどまっていたストライカーが今季、見事に開花した。プレミアリーグ第7節・横浜F・マリノスユース戦で豪快なボレーシュートでプレミア初ゴールを記録すると、第9節から第11節まで3試合連続得点。プレミア残留の懸かった昌平戦でも貴重な先制点を挙げた。得点数トップこそエース種田陽に譲ったが、90分あたりの得点率は今季チームトップとなる決定力だった。
MF 8 安部直斗
サイドを切り裂く快足ドリブラー。左サイドを主戦場に、チームのチャンスを創造する。プレミアリーグ第21節・前橋育英戦では、力強いサイドアタックから石川颯の先制ゴールを導いた。前半戦ラストの第11節・流通経済大学付属柏戦では、種田陽のクロスから決勝点となるヘディングシュートを決めるなど決定力も持ち合わせるが、その能力をコンスタントに発揮できなかったことが惜しまれた。
FW 9 石川颯
前線で体を張って起点となり、ゴールを狙うストライカー。巧みな動き出しでシュートスポットに入り、得点を決める。プレミアリーグ第21節・前橋育英戦での先制ヘッドは、チームを勝利へ、そしてプレミア残留へと導く大きな1点となった。訪れた決定機は決して少なくなかっただけに、シーズン2得点に終わってしまった点は悔やまれるが、数字には表れない貢献をそれ以上に見せてくれた。
MF 10 種田陽
No.10を背負い攻撃を牽引、セットプレーのキッカーも務め、すべての得点はその足から生み出されたと言っても過言ではない。もちろんアシストだけではなく、チーム得点王となる6得点を記録。自身として決して納得のいく数字ではなかったが、プレミアリーグ第21節・前橋育英戦のような重圧の掛かる場面で、しっかりとペナルティキックを決め切るなど、エースとしての働きを随所に見せたシーズンでもあった。
個性にあふれた3年生10人。今年苦難を迎え、そして力を合わせて乗り越えた経験は、必ずや今後の糧となるはずだ。これから各自が進む道で、またそれぞれのキャラクターを生かし、それぞれの活躍を見せてほしい。