今野浩喜の「タダのファン目線記」 大宮公園 後編

今野さんが「タダのファン目線」で行きたい場所に行ったり、会いたい人に会うコーナーとなった本連載。今回は、大宮公園の後編をお届けします(前編はこちら)。管理事務所の小林利哉さんに今野さんが掘り下げて話を聞いたところ、本連載初めての出来事が起こりました。


大宮公園を巡った感想

(大宮公園を散策後、事務所に戻ってフリートーク)

小林「これ、虫刺されの薬どうぞ。10分後くらいに、また痒くなりますから」

今野「ありがとうございます」

小林「やっぱり虫が多いしケガも怖いので、私どもは夏でもこうして長袖長ズボンです」

今野「失敗しました」

小林「大宮公園をぐるっと回って、どんなイメージを持たれましたか?」

今野「なんか思ってた記憶よりも 木がすごい多いなって。前も来たことあるんですけど、こんなに木が多かったっけかな、という気がしました」

小林「広場が多い公園と違って、大宮公園は自然と歴史と池なんです。だからイベントをあまり行なわず、自然を楽しんでもらう」

今野「それでいいと思いますよ」

小林「皆さんに休んでいただく。蚊もいますけど……」

今野「あれだけ大きい池があると、蚊もいっぱいいますよね。どうしたって」

小林「鴨もいるんですよ。カイツブリとか雁が繁殖して、子育てしています」

今野「哺乳類的なものはいるんですか?」

小林「警備員さんが、たぬきの親子を見たって言ってました」

就任1年目にして驚きの知識量

今野「小林さん、この仕事にはどういう経緯で就いたんですか?」

小林「こちらは埼玉県庁の地域機関なんです。埼玉県庁の出先機関は大宮公園事務所だけじゃなく、保健所とか児童相談所とかあるんですけど、そういったものの横並びでして、ここで働いている人は埼玉県庁の職員です」

今野「じゃ、自分で選んだわけではなく、たまたま?」

小林「そうです。転勤というか、異動ですね」

今野「小林さんは、何年前ぐらいからここで働いているんですか?」

小林「ここに来たのは、今年の4月です」

今野「えーー!? それで、あんな知識があるんですか!」

小林「看板に書いてあることばっかりですから()

今野「だって、すべての質問に答えてましたよ」

小林「いやいや」

今野「個人的に、どこの公園が好きとかあるんですか?」

小林「そうですねぇ。千葉県営の公園で、昭和の森ですかね」

今野「千葉!?()

小林「あそこが一番落ち着いた感じで」

今野「なんか聞いたことあるな」

小林「千葉市にあるんですけど、高台から九十九里浜が見えるんですよね」

今野「キャンプ場もありますよね?」

小林「はい」

今野「だから聞いたことがあるんだ」

小林「埼玉だと、入間公園が一番好きかな」

今野「ふ~ん。小林さんっていうのは、なんでそんなに穏やかなんですか?」

小林「いやぁ、今野さんとだから穏やかに話せるんだと思います」

今野「どういうことですか()

小林「やっぱり、穏やかに話せる方と、そうでない方がいらっしゃって」

今野「俺って穏やかじゃなくないですか?」

小林「いや、いまの話し方は穏やかです」

今野「そうですか」

小林「向こうが大声で来れば、こちらも大声になります」

今野「そうなんだ。小林さん、異常にいい人だなって」

小林「そう見えるだけで、そうじゃないかもしれないです()

今野「公園巡りが趣味みたいなもんですか?」

小林「そうですね。趣味と実益を兼ねてってやつですかね。いろんな公園を見ていると、管理の仕方とか、アイデアを思いつくこともあるので」

元祖鉄オタの子ども時代

今野「小林さんは、どういう子ども時代だったんですか?」

小林「電車が好きでした。鉄オタって認知される前の話ですけど」

今野「うん。子どものころ、電車の絵を描いてる友だちとかいました」

小林「そういう子でしたね。あとは鉄道模型を集めてました。私らのころは、クラスで鉄道模型を持ってない子は2人くらいしかいませんでした」

今野「ブームだったんですね。Nゲージとかですか?」

小林「そうそう、それです」

今野「プラレールではなく」

小林「いま子どもだったら、危ない子かもしれませんね」

今野「危ない子にはならないと思いますよ()

小林「電車止めちゃう子とかいるじゃないですか」

今野「あぁ、確かに。電車に乗るのが好きだったんですか?」

小林「乗るのも好きでしたし、切符とかも集めてました」

今野「電車を乗りに遠くへ行ったりとかも?」

小林「大人になってから何回か行きましたね。友達と、只見線とか飯田線を1日で乗って帰ってくるとか」

今野「駅から出ずに、そのまま帰ってくるんですか?」

小林「そうです! だから、家族には何しに行ったんだって言われます()

今野「電車に乗りに行く」

小林「はい。目的は電車に乗りとおすことです」

今野「勉強のできる子でした? それとも運動のできる子?」

小林「運動はダメだったですね。勉強もまぁ……どうでしょう、県庁職員になれるくらいの出来だったかもしれないです」

今野「どのぐらいの出来なんですか?」

小林「優秀な方は優秀で……。あと、下の方は謎なんですね」

今野「なんとか庁っていうだけで、賢い感じはありますけどね」

小林「なるほどね。ちょっとそのへんは謎ですね」

今野「謎っていう答え方が謎ですけどね()

今野さんの演技論

小林「今野さん、ひとつだけ教えてもらいたいことがあって、よろしいですか?」

今野「はい」

小林「演技するときに、様式というか型ってのがありますでしょう。例えば、歌舞伎とか時代劇、アニメの声当てなどもそうかもしれないですけど。それで家庭とか職場で誰かの役を演じるとき、そうした型っていうのはあるんでしょうか?」

今野「なるほど。職員の役のときとかですね」

小林「刑事ドラマのようなときは、ある程度の型があるような気がしますけど」

今野「人によると思うんですけど、俺の場合は何も考えてないですね」

小林「そうですか。与えられた場面で考える?」

今野「いや、言ったら、台本を覚えてるっていうだけですね。だから、自分のセリフしか読んでなくて、お話を理解していないことの方が多いです。これは、あんまりないケースかもしれないですけど」

小林「ふ~ん」

今野「答えになってないかもしれないですけど()。なんでそこに興味が?」

小林「職員として、お客さまと話をするときは、型っていうか演技っていうか、そういった口調があるんですね。失礼にならない話し方があるし、聞いていただきたいこともある。だから、全部が全部フレンドリーに話せばいいわけではなく」

今野「なるほど」

小林「演技というか、役割のようなものがあるのかなと思いまして」

今野「確かに。どの職業の人も、お客さんの前では演じてますものね」

小林「車掌さんなんか、完全にそうですよね」

今野「そうですね。みんな同じアナウンスの仕方ですもんね」

小林「あれも、型があるのかなと」

今野「車掌さんとかは、子どものころからの憧れで就く職業じゃないですか。たぶん、子どものころに憧れたアナウンスをしたくて、そのイメージのまま仕事をしているんじゃないかと」

小林「それはあるかもしれないですね」

今野「このインタビューで私に興味を持ってくれた人、初めてですよ」

小林「こちらから質問しちゃいけないのかと思ってたんですけど……」

今野「そんなこと全然なくて。だいたいクロストークをしてくれなくて、ずっとこっちが聞く感じになりますけどね。だから初めてです。会話してるなって感じたのは」

小林「俳優さんと、こんな近い距離でお話ができるなんてことは、もうないんじゃないかと思いますから」

今野「でもなんだろう。こっちが言うことじゃないですけど、 そう思いますよね()

小林「はい()

今野「呼ばれたから、よく分かんねぇけど話をすればいいと思ってるんじゃないのかな、と感じちゃう瞬間が……」

小林「対談じゃなくてインタビューなんで、こちらからの質問はダメなのかなって」

今野「いやいや」

小林「でも、今野さんとお話ししていて、聞いても答えてくださるかなと思いまして」

今野「自由な対談のつもりですから。それで、どうでした今日の取材は?」

小林「いや、本当に短い時間の中で、その施設の一番重要なところを話されるなって」

今野「あぁ。やっぱり芯を食った質問をしたいですからね、こっちも」

小林「どうやって気づいているのか、不思議に思いました。すごいなって」

今野「表面的な質問はしたくないですから()

小林「シナリオがないなか、核心を突く質問ばかりで、すごいなぁって」

今野「そうなんですよ。ただ、そこになかなか気づいてもらえない()。いや、すべての質問に答えてくれた小林さんもすごかったですよ。ちゃんと公園に、自分の仕事に向き合っている人だなと思いました」

小林「ありがとうございます!」

今野「今日は、すごく楽しかったです。何か言い残したことはありますか?」

小林「いいえ。想定していたことは、みんなお話しさせてさせていただきました」

今野「じゃ、ベストイレブンを聞いても?」

小林「それは無茶です()

今野「どうもありがとうございました」

構成:粕川 哲男

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